脳の自己報酬系(神経群)
―自分へのご褒美のプラスとマイナス
「自分へのご褒美(ほうび)に、ちょっと贅沢(ぜいたく)なものを食べたい」
こんな会話をよく聞く時代になりましたが、実は大脳にも「ご褒美を求める」という特性があるのです。これは「脳の報酬系」と呼ばれる神経系で、欲求が満たされたときや、満たされることが分かったときに脳が活性化し、その人に快感をもたらすものです。こうした脳の機能は、ヒトだけでなく動物の脳にもあります。
つまり、「脳を活性化するには、脳の報酬系を喜ばせればよい」ということになるわけです。そこでまずは、報酬系と呼ばれる脳の機能について見ていきましょう。
前頭前野から自己報酬系神経群へ
犬やイルカなどは、エサ(報酬)をもらうことによって芸を覚えます。人間も同じだというと、怒る人もいるかもしれませんが、私たちが働くのは給料などの報酬があるからです。タダ働きをして喜ぶ人はいません。では、無報酬でボランティア活動をしている人はどうなのか? その場合も実は形のない報酬を受け取っているのです。それは助けを必要としている人の笑顔と、感謝の言葉、そして様々な人とのつながりです。つまり、物質的な報酬ではなく、心の報酬(=脳への報酬)を得ているのです。
また、犬でさえも実利(エサ)だけがご褒美ではありません。麻薬犬の訓練の様子をテレビで見たことがあるのですが、トレーニングのあとの報酬は一緒に遊んであげること(心の満足)だったのです。
脳が喜ぶのは、「自己報酬系」と呼ばれる神経群があるからです。目や耳などから入ってきた情報は、①大脳皮質⇒②A10神経群⇒③前頭前野の順(「A10神経群」を参照)に脳を巡った後、④自己報酬系神経群に進みますが、そこが自分自身にご褒美を出して喜ばせる機能を持った場所です。
自己報酬系による脳自身へのご褒美は、「脳のモチベーション」となるもので、脳の本能ともいうべき3つの欲求、「生きたい・知りたい・仲間になりたい」を満たそうというものです。
※参照⇒ 心の奥底に潜む3つの欲求(脳の本能)
肉体的報酬、物質的報酬~社会的報酬、依存性の報酬
ただし、長期的に見て有益なものばかりとは限りません。「誤った脳の報酬系」が身を亡ぼすこともあります。次にいくつかに分類してみました。
(注=学術的な分類ではありません)
肉体的報酬
説明するまでもありませんが、食べることやセックスなど、動物的な本能に関係する報酬です。
物理的報酬
お金や欲しいモノを得るなどの物質的報酬で、それが約束された場合も含みます。
社会的報酬
人に褒められたり、表彰されたり、自分の業績が公表されたり、称号をもらったりして、名誉心が満たされる心の報酬。
達成報酬
仕事や勉強、スポーツや音楽、絵画、ものづくりなどがうまくいったり、進歩を実感したりした時に感じる達成感。
知的・感覚的報酬
読書や講演などで得た知的発見、手芸・工芸・美術などの制作、楽器や曲のマスターなど、教養や芸術的分野で知的・感覚的刺激や感動を受けたときに感じるもの。
夢や空想による報酬
仕事や家庭などについて未来へのバラ色の夢を描くとき。好きな人のことを想うとき。自分のやりたいことを達成するプロセスを思い描くとき…など、空想の世界で得られる報酬。
※夢を抱くことは大事ですが、非現実的な「妄想」になると、精神的に危うい面もあります。
依存性のある報酬
人体に摂取する一時的な快感や、バーチャル的な性質を持ったゲームなどの高揚感による報酬です。前者はたばこやアルコール類、薬物などの化学物質、後者は競馬、競輪などのギャンブル、パチンコ、ゲーム(電子)、スマホなどです。
なお、これらは人によっては依存症になることがあり、肉体的、精神的、経済的に著しいダメージを受ける危険性があります。依存症は脳(こころ)の病気ですが、本人がなかなか認めようとしないのが特徴です。早い段階で専門家のカウンセリングを受ける(受けさせる)ことが肝要です。
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