物忘れから始まる認知症

 脳の病気でいちばん気になるのが、ボケです。
 最近、物忘れが多くなった。人の名前が覚えられなくなった…。
 そんな“自覚症状”から不安になる中高年の方はかなり多いのではないでしょうか。

 “ボケ”といえば、かつては脳血管性のものが多く、日本人にはアルツハイマー型は少ないとされたものです。今ではアルツハイマーがボケの代表選手となり、正式の呼び名も認知症と改められました。

 しかし、ボケを認知症と呼び替えても、人々の意識がそう変わったようには思えません。本人やその家族にとって、認知症はやはり世間に隠すべき不名誉な病気。「ボケるのだけはいや」と多くの方が思っているのではないでしょうか。

 ここでは、どんな方がボケになりやすいか、そしてどういう生活習慣を持てばボケのリスクを軽減できるかについてまとめてみました。

 いわゆるボケには、脳血管性認知症アルツハイマー型認知症の他に、レピー小体型認知症ピック病などの認知症があります。症状も似ており、医師でも間違えることがありますから、ご家族はちょっとでも異変を感じたら早めに専門医に診てもらうようにするとよいでしょう。ボケに限らず、病気は早期発見が最も大切です。

 次に4つの認知症について簡単に説明します。

脳血管性認知症

 
 脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血が原因で起こるもので、認知症のおよそ3割を占めています。脳梗塞は脳の血管が詰まる障害、また脳出血は脳の血管が破裂して出血する障害です。

 脳血管性の認知症は、ボケの症状が急に起こることが多いのが特徴です。言語障害や手足のまひを伴うことも多く、脳の限られた部分の脳細胞がダメージを受けるため、「まだらボケ」の状態になったりします。まだらボケというのは、できることとできないことが混在することで、たとえば記憶力が著しく低下しているのに判断力はしっかりしているというようなことが生じます。この他、感情のコントロールができなくなるとか、比較的男性に多いなどの特徴があります。

 脳血管性認知症の危険因子は、その対策とともに詳しく後述しますが、動脈硬化などの生活習慣病にあります。

アルツハイマー型認知症

 アルツハイマー型認知症は脳が全体的に少しずつ萎縮するのが特徴で、ボケは緩やかに始まって全体的に徐々に進行していきます。認知症の4割~5割を占めており、高齢者ほどその比率が高まります。

 アルツハイマー型では記憶をつかさどる海馬の周辺から萎縮するため、物忘れから始まることが多くなります。物忘れは中高年になると正常な人でも多かれ少なかれ起こる現象ですが、認知症の物忘れは、日常生活に支障が出るようなことが度々あるとか、本人が物忘れを自覚していないか、自覚していてもあまり深刻に捉えていない、というような違いがあります。

 アルツハイマー型の特徴は、記憶障害、見当識障害、判断力や意欲の低下、感情の鈍化などの症状があることです。

 アルツハイマー型認知症の原因は、脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質が溜まってしまうことにあります。アミロイドβは脳の神経細胞の働きを阻害し、脳の機能を低下させます。

 脳にアミロイドβが溜まる仕組みはまだよく分かっていないので、アルツハイマー型認知症の危険因子は明確ではありませんが、統計的な数字から次のようなことがリスクと考えられています。

①高齢化するほど有病率が高まる。
②同年齢の場合、女性のほうが男性の1.5倍~2.5倍なりやすい。
③非社交的、かたくな、わがままなどの性格の人に起こりやすいという説もある。

レビー小体型認知症

 
 レビー小体型認知症とは、神経細胞の中にレビー小体という異物が現れることによって引き起こされる脳の病気のことです。

 アルツハイマー病の「発見」から70年後の1976年に初めて症例が報告され、病名が決まったのは1996年という「新しい」病気です。レピー小体型認知症は、アルツハイマー病と似た物忘れで家族が気づくことが多いので、長い間、アルツハイマー病とされてきたのかもしれません。

 この病気の特徴は、次の3点です。

①認知機能の変動、つまり比較的はっきりしている時とぼーっとしている時の波がある。
②生々しい幻視がある。
③パーキンソン病の症状(筋肉のこわばり、手足の震えや小幅の歩行など)が見られる。


 なお、「認知症を伴うパーキンソン病」の多くが、実はレビー小体型認知症だと最近分かってきたそうです。

ピック病

 ピック病は上の3つの認知症とは症状が大きく異なります。
 ある時期から急に性格がだらしなくなったり、自制心がなくなったりして、時には社会のルールさえ忘れ、たとえば平気で万引きするといったようなことが起こります。
 
 ピック病の症状に対して周囲は、「あいつは不真面目で、すっかり人が変わってしまったな」などと思いながら、病気と気づかないことがあります。記憶力や計算力が比較的保たれているため、認知症の一種だとは考えにくい面があるのでしょう。

 ピック病は前頭葉と側頭葉の一部が萎縮することによって発症します。

認知症の診断基準


 厚生労働省が発表している認知症の診断基準によれば、ポイントは2つあります。

①記憶障害がある
②見当識障害、理解力の低下、判断力の低下、実行機能の低下のいずれかがある


 ①の記憶障害は新しいことを覚えていないことで、食事をしたことをすぐに忘れてしまうようなことがそれに当たります。古いことは割りと覚えていますが、病状が進行するとそれも怪しくなります。

 ②の見当識というのは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況把握のことをいいます。初めての診断で医師から「今年は何年ですか? 今日は何曜日ですか? ここはどこですか?」などの質問を受けるのは、見当識障害があるかどうかを診るためです。
 また、実行機能は、段取りをしたり手順に従って行なったりする能力のことです。

 ①の記憶障害に、②の障害のどれか1つ以上が加わって、日常生活に支障が出る場合に、認知症と診断されます。その上でさらにアルツハイマー型か脳血管性か、それとも他の認知症かを調べることになります。

 つづくボケを防ぐ暮らし方―認知症予防対策

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