脳を鍛える脳力トレーニング

左脳トレーニング・初級編―計算、朗読、漢字、文章題
  漢字は右脳と左脳を同時に使う―漢字の効用

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漢字は右脳と左脳を同時に使う―漢字の効用

 

右脳を使って左脳を鍛える漢字学習

 漢字の学習は、主に右脳を使うのか左脳を使うのか、話題になることがあります。漢字学習の様々な効用を説明する前に、まずこの問題を片づけておきましょう。

 「漢字は言語だから左脳だよ!」
 「いや、漢字は単なる記号ではなく、図形を解読しているのだから、右脳が中心に決まっている!」

 こんな論争はたわいもなく、だれも傷つかないので楽しいですね。現代日本人は右か左か、白か黒かと、ほんのわずかの差でもどちらかに軍配を上げたがる傾向があるようですので、この問題を少し考えてみましょう。

 一般に、言語を司るのは左脳で、ひらがなやカタカナの読み取りは左脳の働きとされています。ところが象形文字から発展した歴史を持つ漢字は、記号というよりも図形の要素が強く、右脳をより多く使っていると考えられています。漢字には一字一字に意味があり、さらに分解した扁(へん)や旁(つくり)などにも大まかな意味があったりして、実に表情豊かな造形です。そのため、漢字は右脳を強く刺激するのかもしれません。

 ところが、仮名まじりの漢字を読むときは、右脳よりも左脳をより多く使うのだそうです。漢字の表情よりも全体の文脈をとらえる。つまり、言語的(文法的)な論理思考機能が働いてくるのでしょう。いずれにしても右脳や左脳を片方だけ使っているわけではなく、どちらも互いに助け合う形で文字の解読を行っているわけですから、漢字の場合はどちらが優位などと決めつけることにあまり意味はなさそうです。

 結論としては、「漢字学習は右脳の機能をフルに活用しながら、左脳を鍛えるものである」といえるでしょう。

漢字の持つ、感性や情緒に訴える力

 
 漢字が果たす、仮名にはない役割として、感性や情緒に強く訴える力と、論理的な思考や表現に欠かせない力の両面を持っていることが挙げられます。まずは感性や情緒に訴える漢字パワーの例です。

 次に掲げるのは、管理人の書棚に並んでいるお気に入りの小説の中から、特にタイトルで目を引いたものです。なぜか、ミステリーが多くなってしまいました。


  水無月の墓(小池真理子)  葦と百合(奥泉光)
  黄金を抱いて翔べ(高村薫)  水辺のゆりかご(柳美里)
  緋色の記憶(トマス・H・クック/鴻巣友季子訳)

 作者の作品に注ぐ思いの結晶が、一つ一つの漢字の表情に表れていると思いませんか? 私の脳を刺激する漢字は、「水無月(みなづき)」「葦(あし)・百合(ゆり)」「翔(と)べ」「水辺」「緋色(ひいろ)」です。これらは言葉を選ぶ際に、その漢字の趣き深い効果が意識されていると思われます。

 たとえば、「葦と百合」は仮名表記にしては表情がなくなりますし、「翔べ」は「飛べ」や「跳べ」では感じが出ません。水無月と水辺は偶然、同じ「水」のつく熟語を選んでしまいましたが、女性らしい柔らかさの中に、さりげない恐ろしさを秘めた雰囲気を醸し出しています。なお、「ゆりかご」は逆に、「揺りかご」と漢字表記にしないことによって、作者の思いを伝えようとしているように感じられます。

 このように、漢字は私たち日本人にとって、単にコミュニケーションの道具という以上の情緒的、感性的な発信力を持っています。漢字には、話し言葉にはない潜在意識への働きといったものがあるのかもしれません。

論理に欠かせない漢字熟語

 一方で、漢字は論理的な思考と、その表現にも欠かせません。中国から入ってきた音読みの熟語は、今や完全な日本語として私たちの脳に深く組み込まれています。その多くは抽象的な概念を表わす観念語です。抽象的な思考に欠かせないこれらの観念語は、漢字を覚えることによってのみ、理解し、使いこなすことができるのです。

 そのため、やさしい言葉(大和言葉)で表せるものを、わざわざごつごつした漢字熟語を使って文章を書く人もいます。そのほうが知的に見えるということかもしれませんが、かえって読みづらい文章になって損をすることも多々あります。また、背伸びをしているのは、けっこう見破られるものです。何でも難しい漢字(熟語)を使えばよいというものではありません。

漢字能力は語彙力と読解力を高め、思考力を養う

 
 以上のように、漢字は右脳と左脳の両方を使って言葉や文章を理解し、表現するものであると同時に、情緒・感性と論理の両面で日本語の表現に欠かせないものとなっています。漢字能力が「知性の証し」と考えられているのも、そうした漢字の特性や役割があるからでしょう。そこで次に、漢字の具体的な効果・効能について簡単にまとめておきます。

 漢字能力は、国語(日本語能力)の一部にすぎませんが、複雑な意味を表わす言葉や論理的な思考を表わす際に避けて通れません。小学校から高校までは、漢字能力が日本語の語彙(ごい)力や読解力と密接に結びついています。本をあまり読まない人は漢字をあまり知らない。逆に、漢字の苦手な人は、読書を敬遠する傾向があり、読解力の面で同学年と比べて遅れてしまう。そうした相関関係があることは疑いようがないでしょう。

 その意味で漢字学習は、日本語能力を高めるための基礎となるものです。社会人になってだれでも知っているレベルの漢字が読めなかったり、書けなかったりして恥をかくことはよくあることです。まして、漢字能力は知性や教養のバロメーターと考えられることが多いので、何歳になっても漢字を勉強しておくのは有意義なことです。

 漢字は勉強してみると楽しいものです。目標がないと頑張れない人は、漢字検定日本語検定を目指すとよいでしょう。漢字学習は脳を総合的に鍛える、一石二鳥、三鳥のトレーニングとなります。
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