マイナスの感情が脳の働きを抑え進歩を止める
前ページ(脳は情報を心の色メガネで見る)で説明しているように、目や耳などから大脳皮質に入った情報は、感情をつくる神経回路(A10)を通って前頭前野に達し、そこで理解や記憶、判断が行われます。つまり、感情が認識と判断に常に影響を与えているわけです。
感情を抑える前頭前野の役割
視覚、聴覚、嗅覚などの情報が、情動や感情を司る大脳辺縁系という脳のフィルターを通った後に認識される以上は、多かれ少なかれ感情の影響を受けざるを得ないのですが、それをカバーしているのが前頭葉の前の部分、前頭前野です。大脳の司令塔ともいわれる前頭葉がよく働く場合は、感情的になった脳を抑え、冷静な判断ができる状態に戻します。しかし、怒りなどの感情があまりに強く、前頭葉の抑制作用が利かなくなると、理性が感情に負けて判断を誤り、自分にとってマイナスの結果を招く行動をとることになります。
人には多様な気質・性格がありますから、どんな時にマイナスの感情が強く現れるのかも人それぞれです。マイナスの感情をため込んでおくと、やがてその感情にとらわれて毎日を過ごすことになりかねません。その前に早く気付き、理性的に客観的な状況や自分の気持ちを整理したり、気分転換を図ったりして、脳が快適に働けるような状態に戻すことが大切です。では、それができなかった場合、脳はどうなるのでしょうか?
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い/好きこそものの上手なれ
筆者の中学時代の一年の理科と社会がそうでした。理科の先生(男性)は生徒にバカにされていましたし、社会の先生(女性)は性格が嫌いでした。その結果、理科・社会が嫌いになり、定期テストの点数は両科目とも70点を取るのが精一杯でした。
ところが、二年生になって理科と社会が「普通の先生」に代わると、その科目が好きになったというほどではありませんが、テストの成績は80点台に突入しました。さらに三年生の理科・社会の先生は、二人とも好感が持てて、しかも授業中の話が面白いので、家で全く勉強をしないのにもかかわらず、常に90点以上を取れるようになったのです。
ことわざに「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」とありますが、まさにこのことです。筆者の場合は憎むほどではありませんでしたが、マイナス評価をしている人間の言うことなど、頭に入るはずがありません。
真の指導者とは、「やらなければならないことを、好きにさせる力」を持った人ではないでしょうか。「好きこそものの上手なれ」は例外のないことわざです。「これをやっておけ!」ではなく、自発的にそうなるように導く人間性が、指導者には求められるのですね。
でも、そうした運に恵まれるとは限りません。その場合は、少しでも上司(または先生)の良いところを見つけて嫌いな感情を克服すると共に、直面した仕事(学習)の中に自ら面白さを発見していく努力と工夫が必要です。「脳を楽しくするトレーニング」と考えれば、自分なりの感情コントロールの仕方がわかってくるでしょう。
マイナスの感情は習慣になりやすい
問題の先送りは、時には性急に行動するよりも良い結果を生むこともありますが、それは結果論であって、脳の性能を鈍らせることに貢献することは確かです。やはり「プラス思考で問題に立ち向かう心」を築くことが大切です。つまり、意欲やアイデア、計画を司る前頭前野をフル回転させることです。
なお、マイナスの感情にレッテルを貼ってしまう習慣は、脳の「自己保存」と「統一・一貫性」という癖によるものだそうです。(林成之著「脳に悪い7つの習慣」による)
愚痴(グチ)を言うのはストレスの発散になる?
あなたは無意識にこんな愚痴をつぶやいたことはありませんか?「難しそう」 「面倒くさいな」 「無理だよ」 「疲れた」……
愚痴を言うのは一見、心のモヤモヤを発散し、脳の疲れを取る効果がありそうに思えますが、実は逆効果です。それはすでに述べてきたように、脳にマイナスのレッテルを貼ることになるからです。
しかも、自分の言葉で発声し、それを耳で聞くことによって復習しているわけですから、まさにマイナスの自己暗示をかけているようなものです。これから行う仕事(学習)の効率を落とし、ミスを誘発することにもなりかねません。気持ちをプラスに切り替えるのは難しいものですが、言葉だけでもプラスの発声をしてみると、意外にマイナス感情にとらわれなくなるものです。例えば、上の愚痴の例で言えば…
「意外に簡単だよ」 「効率よく終わらせよう」 「面白そう」 「あとが楽しみ…」
というような前向きの言葉を発するだけでも、ストレスを抑え込み、能率が上がりそうです。複数の人がいる場合は、そうしたプラスの言葉は自分にも返ってきて、相乗効果を生むでしょう。
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