意欲と創造性を弱める脳の癖
ー偏桃体の働きを知る
大人の脳の働きを阻害している要因は…
なぜ、勉強ができても仕事ができない人がいるのか? その答えは意外にも情動を司る偏桃体にありました。あなたは、仲間をつくる本能や生来の好奇心を忘れて、仕事に不可欠な意欲や創造性を弱めていませんか?
人間の赤ちゃんは小学校に上がるまでに、恐るべきスピードで言葉を身につけ、身の回りのあらゆることを把握していきます。誰も教えたわけでもないのに、生来の好奇心で自発的におびただしい知識を身につていくのです。赤ちゃんの武器はあの笑顔です。誰をも味方につけてしまう天真爛漫な表情が、実は脳の発達を促していると考えられています。その意味で、先ほどの好奇心と並んで、人を求めて仲間を作ろうとする心は、人間の生涯変わらない本能といってよいでしょう。
ところが、自我の芽生える思春期を経て、社会に出て働くようになると、多くの人たちは生活上の様々な出来事にストレスを感じ、生来の好奇心を弱めるだけでなく、好き嫌いの感情で偏った人間関係を築くようになります。
これでは、せっかく十代の頃に鍛えた脳は、それ以上の発達をやめてしまいます。その結果、会社では次のような評価を受けることになってしまうのです。
教えられたことはよくできるけど、自発性や創造性に欠ける。
学校時代の成績は良かったのに、仕事は期待外れだな。
まあ、可もなし不可もなしだね。
そうならないためにもぜひ、「仕事のできる脳」の作り方を考えておきたいものです。ここでは、近年注目されている扁桃体という器官を知ることによって、「大人の脳の働きを阻害している要因」を取り除き、生涯にわたって脳が成長し続ける生き方を考えてみましょう。
扁桃体の働きを知ることで、あなたの脳は全開する!
私たちの目や耳などから入った感覚情報は、まず大脳皮質を通って扁桃体に伝えられます。そしてその情報に対して、扁桃体は「好き・嫌い」などの情動的な反応を示します。つまり、私たちが生きている中で得るあらゆる感覚情報は、偏桃体という情動的なフィルターを通して認知され、記憶されているのです。しかも、偏桃体の「好き嫌い」は通常、いちいち意識されることはないのでやっかいです。
(記憶力に関しては ⇒ 記憶を司る海馬。情動を司る扁桃体も記憶に関与)
こうして、私たちの認知や記憶のすべてに関して、普段はあまり意識されない、意識の奥底の情動が影響しているとなると、どうなるでしょうか。例えば勉強や仕事などに関して、扁桃体がマイナス情報を加味して他の脳の器官に伝えている場合は、「どうも気が乗らない」というような心理状態になり、なかなか物事がはかどらなくなります。同じ能力があっても、やる気次第で大きな差がつくことは誰も経験済みでしょうが、そうした意欲の差にも扁桃体が関わっているのです。
脳の癖を直し、意欲、創造力、実行力を高める
仕事にはその専門ごとの知識や技術、技能、経験と勘などがあり、それらの総合能力が仕事の成果に大きく関わっていることは言うまでもありません。しかし、同じ能力を持った人でも、その人の置かれた仕事環境や、やる気(集中力)、モチベーションの持続などの違いで、結果に大きな差が生ずることも事実です。
さらに、個人の能力だけで優れた仕事ができるわけではありません。上司、同僚、部下、社外ブレーン、取引先担当者などの理解や協力、連携、援助があってこそ、能力が最大限に発揮できるのです。
つまり、これまでに培った個人としての仕事能力に加えて、モチベーションを高く保ちながら、意欲、創造力、決定力、実行力を最大限に発揮できる、人間関係を含めた脳の環境を作ることが大事なのです。
日常の「好き嫌い」をなくせば、自分が変わる
誰にも食べ物の好き嫌いがあります。「私には好き嫌いがない」という人でも、美味しさのランクが何段階かあるはずです。扁桃体が生んだこのような好き嫌いに、論理的な説明を加えるのは困難ですし、意味もありません。嫌いな食材を好きになるには、「これなら結構いける!」というおいしい調理法に出会って、「思い込み」を少しずつ変えていくしかありません。
同様にして、扁桃体が長年かけて作り出した「仕事にマイナスとなる癖」も、理屈ではなく、マイナスの感情をもみほぐして、少しずつ「避ける感情」を減らしてゆかなければなりません。
例えば、上司や部下としっくりこない、会社の飲み会はできるだけ避けたい、仕事中に無駄話をするのは時間がもったいない、つまらない仕事しか与えられない、努力しているのにちっとも評価されない……というような感情は、多かれ少なかれ誰でも持ったことがあるでしょう。これらのマイナスの感情は、その人の立場に立てば「そうだね」と一応は相槌を打つこともできます。でも、冷静に考えれば、どれも自分の可能性を自ら閉ざし、脳の働きを弱めていることが分かるはずです。
視野を広げ、考え方を柔軟にすれば、職場の悩みも解決
上司や部下としっくりこないのは、相手だけが悪いのではないはず。飲み会や仕事中の無駄話は、コミュニケーションを図るメリットだけでなく、何かのヒントとなる情報が得られるかもしれません。脳を活性化させるには、一見無駄と思える「遊び」も必要です。つまらない仕事…? 給料を払って役に立たない仕事をさせる、ゆとりのある会社があるのでしょうか。仕事は待っているだけではやってきません。自分の視野を広げることです。また、「自分が評価されない」という場合は、自己評価が間違っている可能性や、そもそも評価基準が異なっていることも考慮しなければなりません。そのためには「敵を知る」努力も必要です。
漠然とした好き嫌いが招くこうした悪い状況を悩んだり、「不運」とあきらめたりする前に、単に自分の好き嫌いの問題に過ぎないことに気付くべきです。嫌だと思っていたことでも、案外些細なことで気乗りしなかっただけかもしれません。嫌いな食材を克服するように、そのきっかけを積極的に作り出していけば、やがてあなたの脳は全開するでしょう。
あらゆることに好奇心を持つ
同じ仕事を10年ほど経験し、自他ともに一人前と認める存在となった頃が、脳にとっては危機の始まりなのかもしれません。責任ある立場で自信を持って仕事をすることが、なぜ脳に悪いのかというと、多くの場合、自分の専門分野に閉じこもってしまいがちになるからです。人間関係は自己部門の人や会社の人、同じ業界の人のみの付き合いがほとんどになり、読む本も仕事に関係するものに偏ります。そして、絶えず仕事のことばかり考えるようになります。
企業でも、同じ分野の事業を同じノウハウで続けていては、長続きはしません。企業には常にイノベーションが求められているのです。同様に、個人レベルでも「マイ・イノベーション」は必要です。そのためには、常に自分の専門外の分野についても関心を持つとともに、ビジネスとは無関係の趣味の世界に浸ることも肝要です。
あらゆることに好奇心を持つことによって、思考パターンが広がり、大脳が活性化するとともに、アイデア発想力が増し、常に新しい道を切り開いて進む勇気が生まれるのです。
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