脳力=頭の良さとは?
―ある心理学者と脳神経生理学者の説を比較
学校時代の頭のよさと、仕事での頭のよさの違い
「頭がよい」という言葉は、一般にはどのような意味で使われているのでしょうか?小学校から高校までは、テストの点数が頭のよさを測る尺度となる傾向があり、記憶力や計算能力のすぐれた子ほど頭がいいと思われがちです。
秀才の中でもトップクラスになるためには、さらに理解力や思考力、応用力などの能力も要求されます。しかし、何といっても重要なのは記憶力であり、あわせて長時間、勉強が続けられる集中力と忍耐力の有無が成績を左右します。
ただし、ガリ勉タイプは少し評価が下がり、あまり勉強をしないで成績が上位の生徒が「本当に頭がよい子」とされます。
ところが社会に出ると、知的な仕事に要求される脳力は、記憶力や計算能力ではありません。それよりも理解力や思考力のほうが大事で、さらに分析力、表現力、発想力、企画力、調整力、コミュニケーション能力などが求められます。
最後のコミュニケーション能力は、IQ(知能)だけでなく、EQ(Emotional Intelligence Quotient=感情知能指数)に関係します。
「頭のよさ」の一般的イメージ
学歴偏重時代には、一流大学を出ることが頭のよい証しでした。今でもその傾向はありますが、「本当に頭のよい人は?」と尋ねれば、次のような答えが多く返ってくるでしょう。「アイデア、発想が豊かな人」
「学習能力が高く、すぐに応用できる人」
「適応力があり、生きる知恵のある人」
こんなところが「頭のよい人」の一般的イメージでしょうか。
この他に、「抽象化能力がすぐれているかどうか」を頭のよさの目安にする人も、識者(=頭のよい人?)には多いようです。抽象化とは、たとえば、太陽やクラゲ、数字の0、大福、などを同じ「丸い形」と認識したり、へたくそで劣っている様子を「拙劣(せつれつ)」と表現したりすることです。
具象的な単語が少なく、抽象的な言葉が続く文章は、言葉の知識や読解力が不足していると頭に入りづらいものです。その意味では確かに、抽象化能力も頭のよさの目安の一つにはなりそうです。
なお、「難しいことをわかりやすく説明してくれる人」を頭のよさの条件とする人がいますが、これは前述のEQ(感情知能)に関係することで、IQとはあまり関係ありません。また、仮に難解な内容をわかりやすく説明できたとしても、そのすべてを正確に伝えたことにはなりません。
これとは逆に、やさしいことをことさら難しく説明する人がいます。「頭がよいと思われたい願望」が潜んでいるのでしょうか。EQがあまり高くないことは確かですが、IQに関してはそれだけでは判断できません。
心理学から見た知能・脳力
知能については、心理学の世界でも昔から研究がなされ、いろいろな説が発表されてきました。その中で、現在もっとも利用価値があるとされるのが「サートンの多因子説」です。サートン(1887~1955年)は、知能検査などの分野で統計処理の発展に貢献したアメリカの心理学者ですが、知能の因子分析を行い、次の7種類の分類を導き出しました。
〔サートンの多因子説〕 1.言語理解………言葉を使う能力 2.語の流暢性……なめらかに話す能力 3.数………………計算などの能力 4.空間……………空間的関係の理解 5.記憶……………記憶する能力 6.知覚速度………知覚するスピード 7.推理(帰納)…推理する能力 |
学校時代は、評価が「記憶する能力」に著しく片寄り、かろうじて「推理する能力」と「計算する能力」が評価項目に加わっているという感じです。
日本の ある脳神経生理学者の説
次に、「頭がよいとは?」の疑問に現代の日本の脳神経生理学者、久保田競氏が唱えた説をご紹介しましょう。上のサートン説と矛盾するものではありませんが、仕事や人生により直結した、シンプルな表現となっています。〔頭がよいとはどういうことか?〕 ①注意力、判断力、決断力、記憶力があり ②自己実現(したいことをすること)ができ、 ③問題解決能力が高く ④創造性に富んでいる こと (一番重要なのは前頭前野) |
一流大学出身者は、①の判断力、記憶力が優れ、少なくとも大学入学までは②の「自己実現」を成し遂げた人もしれませんが、③④の問題解決能力と創造性が優れているという保証はありません。学校の成績も大事ですが、高校卒業後は「右脳・左脳」といった部分的な脳力ではなく、前頭葉(前頭前野)を高度に鍛え続けることが、優れた頭脳をもたらすものと考えてよいでしょう。
◎前頭葉(前頭前野)に関しては下記をご覧ください。
脳の司令塔―前頭葉の役割(脳の仕組み3)
◎脳生理学について初歩から知りたい方は
脳を機能別に分けると…(脳の仕組み1)
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